犬の外耳炎に使うPSPP分類とは?主因・副因・素因・永続因を獣医師向けに解説
2026.9.6
PSPP分類とは?
きたのさと動物病院札幌どうぶつ皮膚科・耳科センターの今道昭一です。
当院では外耳炎の紹介症例も受け入れており、獣医師からPSPPについて質問を受けることがあります。
PSPPは実際の診療ではとても役立つツールですので、あくまで私なりの考え方ではありますが、この記事でご紹介します。
この記事では、PSPPを次の3つの視点から整理します。
1.素因・主因は「発症に関わる因子」、副因・永続因は「発症後に関わる因子」と考える
2.同じ因子でも、その症例での役割によって、素因・主因・副因・永続因のいずれにもなり得る
3.PSPPは「外耳炎になりやすい因子はあるか → 外耳炎を発症させる背景疾患や原因は何か → 何が炎症を増悪させているのか → なぜ治らないのか」を整理し、診断と治療につなげるもの
最初に用語の確認です。
Perpetuating factorは、日本語で「増悪因」と訳されることがあります。
外耳炎が長期間持続し症状が悪化するという意味では理解できますが、Perpetuating本来の意味は「持続させる」「長引かせる」です。
また、「増悪因」つまり「炎症をさらに悪化させる」という役割は、Secondary factorである副因の方が近いように思います。
そのため、このブログでは、
・副因=外耳炎を増悪させる因子
・永続因=外耳炎の治癒を妨げ、持続させる因子
と整理して話を進めています。
PSPPを「発症に関わる因子」と「発症後に関わる因子」に分けて考える
私はPSPPを、まず次の2つに分けています。
外耳炎の発症に関わる因子
・素因(Predisposing factor):外耳炎になりやすい因子
・主因(Primary factor):外耳炎を発症させる背景疾患や原因
素因+主因が加わると、正常な耳に外耳炎を発症させます。
すでに発症した外耳炎に関わる因子
・副因(Secondary factor):炎症を増悪させている因子
・永続因(Perpetuating factor):外耳炎が治らない原因
外耳炎が発症した後、副因が炎症を増悪し、永続因が外耳炎の治癒を妨げるようになります。
このようにそれぞれの因子を発症前と発症後に関わる因子に分けて考えると、PSPPを臨床で使いやすくなります。
素因と主因の違いは「発症閾値」で考える
素因と主因は、どちらも外耳炎の「発症」に関係します。
この2つを区別するとき、私は外耳炎の発症閾値という考え方を加味します。
外耳炎は、いくつかの因子が重なり、その動物が持つ発症閾値を超えたときに発症すると考えます。
素因は単独で外耳炎を発症させることはできませんが、発症閾値を下げています。
主因は、正常な耳に炎症を起こし外耳炎を発症させる力がある、または外耳炎を発症させる背景疾患とも言えます。いずれも発症閾値を超えさせるために必要な因子です。
また、素因がいくつも重なり発症閾値が十分に下がると、ちょっとしたトリガーで外耳炎を発症することもあります。そのトリガーは成書で主因として分類されている因子はもちろんですが、素因として分類されている因子もトリガーになる可能性はあります。
つまり、素因と主因の境界線上にある因子が存在するということです。
素因(Predisposing factor)とは?
素因はそれ自体で外耳炎を発症させる力は弱いものの、外耳炎を起こしやすい状態をつくる因子
つまり、発症閾値を下げる因子になります。代表的なものには、
- 垂れ耳
- 狭い耳道
- 耳道内の毛
- 高温多湿
- 耳道内の湿潤
などがあります。
基本的に、これらだけでは外耳炎が起こることは少ないかと思います。
主因(Primary factor)とは?
主因は外耳炎を発症させるために必要な因子、つまり、発症閾値を超えるために必要な因子です。
主因は直接あるいは単独で外耳炎を起こすものと記載された資料もありますが、単独では外耳炎を発症させる力が足りず、いくつかの因子が重なったときだけ外耳炎を発症させることができる主因もあります。直接あるいは単独にこだわらず、主因は外耳炎を起こせる疾患と広く考えた方が理解しやすいと思います。代表的なものには、
- 犬アトピー性皮膚炎
- 食物アレルギー
- 耳ダニ
- 耳道内異物
- 接触性皮膚炎
- 脂腺増多症
- 内分疾患
などがあります。
例えば耳ダニは、全く素因がない場合でも、単独で外耳道に炎症を起こす強い力があります。
一方で、軽度の脂腺増多症、甲状腺機能低下症などは、いくつか他の因子が重なって外耳炎を発症させると思われます。
副因と永続因は「発症した後」に考える
副因と永続因は、どちらも発症後の外耳炎に関わる因子ですが役割は異なります。
副因はすでに起きている炎症をさらに強くする因子です。副因を取り除けば、かゆみや発赤、腫脹などの炎症は軽くなります。
一方、永続因は炎症を強くすることが本質ではありません。外耳炎が治るのを妨げ、病態を持続させる因子です。
つまり、
副因は「炎症を強くするもの」
永続因は「外耳炎が治らない理由」
と考えると分かりやすいです。
| 【注意】 Perpetuating factorは日本語で増悪因と訳されることがありますが、その本質は外耳炎の完治を妨げ、外耳炎を持続させる因子のことです。副因はすでに病的になった耳で生じ炎症をさらに増悪させる因子のことです。 |
副因(Secondary factor)とは?
副因はすでに発症している外耳炎を増悪させる因子です。代表的なものには、
• マラセチア
• 細菌
• 不適切な耳洗浄
などがあります。
ご存知の通り、多くの場合、マラセチアや細菌はそれ自体が外耳炎を発症させるわけではありません。
何らかの原因によって外耳炎が発症し、耳道環境が変化することで細菌やマラセチアが増殖します。
それらの増殖は、かゆみ、発赤、腫脹など、すでに発症している外耳炎の症状を増長します。
これが副因です。
また、成書には副因は適切な治療によって除去できることが多いと記載されています。多くの場合、それは正しいと思います。
だから、もし適切に治療しても副因であるマラセチアが検出され続ける場合、
「内科治療で除去できないためマラセチアは永続因」と考えるのではなく、
マラセチアが消えない要因として以下のような可能性を考えた方がよいでしょう。
• 主因が十分にコントロールできていない
• 永続因が残っている
• 素因が強く関与している
永続因(Perpetuating factor)とは?
永続因は、外耳炎の寛解や治癒を妨げ、外耳炎を持続させる因子です。外耳炎が長引くと炎症が悪化していきますが、炎症を悪化させることは永続因の定義の本質ではありません。
代表的なものには、
- 慢性炎症による耳道皮膚の組織学的な変化
- アポクリン腺、皮脂腺の過形成
- 耳道狭窄
- 鼓膜の異常
- 中耳炎
- 耳道や耳周囲組織の石灰化
などがあります。
外耳炎を長期間繰り返していると、耳道の皮膚は角化亢進、真皮肥厚、炎症細胞の浸潤、分泌腺の増大など組織学的な変化が起こります。これらが進行すると外耳炎の治癒を妨げる永続因になります。
永続因は点耳薬で改善しないものが多く、点耳薬を変更しても効果は期待できません。どんな点耳薬を使っても治らないときは永続因を確認することが欠かせません。ここで時間をかけて外耳炎を長引かせると永続因が重症化し、不可逆的変化、さらに末期的な外耳炎に至ります。
永続因の多くは耳道内の変化ですから、診断と治療にはビデオオトスコープがとても役立ちます。
同じ因子が素因にも主因にも副因にも永続因にもなる
ある因子がこの文献では素因なのに他の文献では副因になっている、と気づいた方もいるかと思います。決して、その分類が間違っているわけではなく、同じ因子であっても、症例によってその役割が変わるからです。
それを耳洗浄と甲状腺機能低下症を例に考えてみます。
耳洗浄は素因にも主因にも副因にもなる
例えば「耳洗浄」を考えてみます。
耳洗浄が素因と考える場合
頻繁な耳洗浄によって耳道内に水分が残り湿潤環境が続いているとします。
そのことが、外耳炎の発症閾値を下げるだけと考えるなら、耳洗浄=素因と言えます。
耳洗浄が主因と考える場合
洗浄液に対する接触性皮膚炎によって外耳道炎が発症したのであれば、耳洗浄=主因と言えます。
耳洗浄が副因と考える場合
すでに外耳炎を発症している耳を強く洗浄し、耳道皮膚を傷つけた結果、炎症がさらに悪化したのであれば、耳洗浄=副因です。
このように、同じ「耳洗浄」であっても、その症例で果たしている役割によって分類が変わります。
甲状腺機能低下症は主因か素因か?
甲状腺機能低下症は一般的に主因に分類されますが、実際の症例では単独で外耳炎を発症させているのか、背景疾患として存在し他の因子と組み合わさって発症させているのかを考える必要があります。
「どちらが正しいか」と考えるより、甲状腺機能低下症がその症例でどのように外耳炎へ関与しているかを考えた方が治療方針を立てるときに役立ちます。
「甲状腺機能低下症による角化や皮脂腺機能の変化によって耳道環境が大きく変化し、それによって外耳炎が発症した」
と考えるのであれば、主因と考えることができます。
その場合、適正な甲状腺ホルモンの補充、皮脂腺が過剰になっているなら耳道洗浄などが治療の主体になるかもしれません。
一方、
「甲状腺機能低下症だけでは外耳炎は起きなかったが、不適切な耳洗浄など他の因子と組み合わさったことで発症した」
と考えるのであれば、不適切な耳洗浄という因子への対処が重要になると思います。
私は甲状腺機能低下症を素因に分類している資料を見たことがあります。そうなると、上記のケースでは素因+素因で外耳炎が発症するのか?と疑問を持つ方もいるかと思います。多数の素因が重なると発症閾値が下がります。発症閾値が下がると、外耳炎を発症させる力が弱い因子であっても、外耳炎を発症させるトリガーになると考えるのは自然だと思います。実際の臨床ではPSPPをきっちり当てはめることができないケースは少なくありません。
素因、主因、副因、永続因子から診断と治療を組み立てる
外耳炎は「主因=アトピー、副因=マラセチア」だけでは説明できない
柴犬では、
主因:犬アトピー性皮膚炎
副因:マラセチア
というケースはよく見かけます。
しかし、実際の外耳炎はそれほど単純ではなく、複数の因子が重なって発症していることがあります。
例えば、オクラシチニブで治療されているアトピーの柴犬では、耳以外の皮膚症状がほぼ正常になっていても、外耳炎だけたびたび繰り返す症例がいます(持続ではありません)。
このような場合、「アトピーによって外耳炎が発症し、マラセチアの増殖によって炎症が悪化した」という説明では不十分です。
なぜ外耳炎だけが繰り返し発症するのかを考えるためには、耳道の形態、湿潤、耳毛、耳洗浄、高温多湿など素因を評価する必要があります。また、トリミングで耳洗浄をした、夏になった、という生活環境も評価する必要があります。
つまり、アトピーが単独で外耳炎を発症させたわけではなく、耳の解剖学的な素因や生活状況が発症閾値を下げているから皮膚は正常でも耳が悪くなると考えられます。そのような考え方で治療すると、主因となるアトピーの治療を強化するのも一つかもしれませんが、温度/湿度管理や耳洗浄方法の修正という治療の選択肢も出てきます。
PSPPを診療で使うときの4つの質問
診療ではPSPP分類を使って以下の4つの質問に答えると診断がより正確になります。
① 素因:なぜ外耳炎になりやすいのか?
垂れ耳、狭い耳道、耳毛、湿度、耳介の構造、日ごろの耳ケアなどの解剖学的要因、生活状況に問題はないか?
② 主因:外耳炎を発症させる背景疾患や原因は何か?
アトピー性皮膚炎、脂腺増多、食物アレルギー、耳ダニ、異物、接触性皮膚炎など外耳炎を発症させる背景疾患は何か?多くの場合で何らかの主因があります。しかし、何でもアトピーと言ってはいけません。
③ 副因:何が外耳炎を増悪させているか?
マラセチアや細菌、誤った耳のケアなど炎症を悪化させる原因はないか?
④ 永続因:なぜ外耳炎が治らないのか?
慢性的な耳道の構造変化、耳道狭窄、鼓膜異常、中耳炎など耳道内の異常はないか?。そのためにビデオオトスコープが有用です。
私はこの流れが考えやすいと思っています。
まとめると、
PSPPは、素因・主因を「外耳炎の発症に関わる因子」、副因・永続因を「発症後に関わる因子」として整理すると理解しやすくなります。
また、同じ因子でも、その症例でどのような役割をしているかによって分類は変わります。
大切なのは分類そのものではなく、
「なぜ外耳炎になりやすいのか → 外耳炎を発症させる背景疾患や原因は何か → 何が炎症を増悪させているのか → なぜ治らないのか」
を整理し、診断と治療につなげることです。
次回は、実際の外耳炎症例を写真とともに紹介し、PSPPをどのように治療へつなげているかをご紹介します。
PSPPについてよくある質問
犬の外耳炎で細菌やマラセチアは主因ではないのですか?
多くの症例では、細菌やマラセチアは外耳炎が起こった耳道で二次的に増殖し、炎症を悪化させる副因として考えます。自然に細菌やマラセチアが増殖し外耳炎を起こすとは考えにくいので、主因とは考えていません。
主因と素因をどう区別しますか?
私は、その因子自体に外耳炎を発症させる力があるかどうかを一つの目安にしています。
発症閾値を下げて外耳炎を起こしやすくするものを素因、発症閾値を超えるために必要な因子を主因と考えると整理しやすくなります。
外耳炎が治らないときの原因は?
まず再発なのか、持続なのかをしっかり区別することが大切です。
外耳炎が寛解または完治したけど、その後に外耳炎が起こったときは再発と考え、この場合は何か主因があると考えます。
一方、外耳炎を緩解または完治させることができず持続するときは、主因または永続因があると考えます。
主因と永続因のリストは全く違います。それぞれのリストを見るとわかりますが、主因は内科療法で管理できるものが多く、永続因はビデオオトスコープや外科的治療が必要なものが多いです。
きたのさと動物病院 札幌どうぶつ皮膚科・耳科センター 今道昭一
きたのさと動物病院 併設/札幌どうぶつ皮膚科・耳科センター
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